おしゃべり通信(2020年)
院内報
=第17号 令和3年3・4号=
新型コロナ感染症(COVID-19)
~第7報~
新型コロナワクチンの予防接種について
1.はじめに
新型コロナ感染症は世界中で猛威をふるい続け、2月15日現在感染者は約1億1000万人、亡くなられた方は約240万人に及び、日本においても感染者は約41万人、亡くなられた方は約7000人となっています。しかし幸いにもわが国の第3波の感染の波は非常事態宣言による3密を避ける自粛の効果もあり、減少傾向に転じています。そしていよいよ新型コロナ対策の切り札と言われる新型コロナのワクチン接種が開始されようとしています。本稿ではワクチンの予防接種について説明します。
予防接種はあらゆる感染症において、病気になって診断、治療をするよりも病気にかからないように予防するという目的において最も有効な感染症対策です。
2.新型コロナワクチンについて
これまで世界や日本においてインフルエンザ、はしか、風疹、水痘、日本脳炎などのウイルスや結核、ジフテリア、破傷風などの細菌に対してワクチンによる予防接種が行われ、これらの病気で死に至るあるいは重篤な後遺症が減り多大な成果がもたらされました。そして天然痘はワクチンによりすでに世界から消滅したとされています。
これらのワクチンは病原体を化学的に変性した不活化ワクチンあるいは病原体としては生きているものの毒性を弱めた生ワクチンとして接種されてきました。今回の新型コロナワクチンはまったく新しい手法で作られたワクチンで、新型コロナウイルスの遺伝子であるメッセンジャーRNAの一部を合成して接種します。その新型コロナのメッセンジャーRNAが人の体内に接種されますと細胞の中で新型コロナの一部の成分だけを合成してそれに対する抗体が生産されて新型コロナウイルスの人の体内への侵入を防ぐことをねらっています。ワクチンの効果は感染そのものをおさえる感染予防、たとえ感染しても病気にならない発症予防とたとえ病気になっても重症化しない重症化予防の3つがありますが、新型コロナウイルス(現在、ファイザー社,モデルナ社,グラクソ・スミス社,ジョンソン&ジョンソン社製)は発症予防効果は70~95%と極めて高く、感染予防効果や重症化予防もあるとされています。例えばインフルエンザワクチンは発症予防効果は40~60%とあまり高くありませんが、重症化予防効果が認められ、その効果も加味して毎年接種が行われています。
新型コロナウイルスもインフルエンザウイルスと同様、遺伝子がRNAからなり、変異しやすいのが特徴です。従って新型コロナワクチンもインフルエンザワクチンと同様、毎年接種する必要が出てくるかもしれません。
3.新型コロナウイルスの接種のしかた
まず、新型コロナワクチンを接種するかどうかは最終的には個人の意思によりますが、はしか,風疹,水痘や日本脳炎などと同じくできるだけ接種することが望ましく、努力義務となっています。一方インフルエンザワクチンは全く個人の意思にまかされています(任意接種)。
新型コロナワクチンは有効性はいずれも高いと考えられますが、接種の条件がメーカーにより異なります。わが国で開始されるワクチンはファイザー社製ですが、適応年齢は16才以上で3週間の間隔をおいて年令を問わず2回接種します。モデルナ,アストラゼネカ社製は18才以上で4週間の間隔をおいて2回打ち、ジョンソン&ジョンソン社製は1回打ちですみます。妊婦の人への対応は国によってまちまちですが、日本では任意とされ努力義務から除外されました。今回わが国で開始されますファイザー社製は温度管理が重要で-75℃で6ヶ月間,2~8℃の冷蔵庫で5日間、室温で6時間有効です。また振動に弱いことも特徴でオートバイや自転車での運搬はよくないとされています。
今回の新型コロナワクチンの予防接種は16才以上の努力義務ですので日本で少なくとも7000~8000万人の人が接種を受けることを想定しており、しかも2回打つ必要がありますので、これまで最も多い約5000万人が受けているインフルエンザワクチンの2~3倍の接種規模となり
過去に例のない大規模な予防接種であり、しかも温度や振動に配慮する必要があり、ワクチンの配送や接種のしかた(集団接種か個別接種),医療従事者・高齢者・基礎疾患ある人・その他一般の人などグループ別に順序立てて行うことを考え合わせ、最も効率よくかつ迅速に進める必要があり、大規模プロジェクトとされる由縁です。現在、玉名郡市においても保健所、市や町の行政の人達と玉名郡市医師会とで急ぎ予防接種体制を構築中です。
4.ワクチンの副反応
短期的にはインフルエンザワクチンと比較しますと、局所の痛み,はれ,熱感あるいは全身のだるさ,発熱などの何らかの症状が合計で50~70%程度にみられインフルエンザワクチンより頻度は高いとされています。また重度の全身のアレルギー反応であるアナフィラキシーは20万人に一人とインフルエンザワクチンの100万人に一人より多いですが、いずれも基本的に極めて稀です。しかし念のため注射の後15~30分の経過観察が必要です。長期的な副反応についてはこれからの観察ということになりますが、基本的にメッセンジャーRNAは人の体内に入ってからは比較的早く分解・代謝されることと、またこれは人の細胞の核内に入ることはできませんので安全性は高いと推測されています。
5.最後に
ワクチンの予防接種は、その人個人の予防と同時に、多くの人が接種することで社会全体の感染が減るという集団予防の面があります。今回の新型コロナ感染症は、この1年間の感染拡大の状況から無症状の感染者が多い一方で死に至ることもある重大な病気であり、社会活動が大きく制約されること、無症状の感染者がいるがゆえに集団予防が必要であり、適応である方はできるだけ多く予防接種を受けることが望ましいと思われます。
浦田医院 浦田誓夫
おしゃべり通信(2019年)
おしゃべり通信2019年1月~2019年11月分をご覧いただけます。
院内報
=第7号 令和元年11月号=
難治性気管支喘息
夏から秋へ季節の変わりめの頃は、気道の過敏性が亢進し、またアレルゲンであるダニや家のほこりが増え、気管支喘息発作がおきやすくなります。
気管支喘息の約5%~10%にこれまでの吸入ステロイド薬、長時間作用薬のβ2刺激薬(LABA)やテオフィリン薬で十分なコントロールができない難治性喘息があります。難治の要因としては、高度なアレルギー性、気道過敏性の他に慢性閉塞性肺疾患(COPD)が合併し、肺の構造が損傷される場合があります(ACO)。高度なアレルギー性については最近いろいろな生物学的製剤が使用可能となって有効性を発揮しています。
ACOは特に高齢者に多く、治療が手遅れにならないよう、早め早めの治療が必要です。普段から吸入のステロイド薬、長時間作用のβ2刺激薬(LABA)に加えて長時間抗コリン作用薬(LAMA)の併用(トリプル治療)を行い、それでも発作がおこる場合には早めに発作への治療が必要となります。
わが国は高齢化が進んでおり、今後、気管支喘息とCOPD合併のACOは増加すると推測されていますので、定期的に通院され、コントロールをしていかれるようお願いします。
浦田医院 院長 浦田 誓夫
令和元年6月 院内報 天衣無縫
天 衣 無 縫
=第2号 令和元年6月号=
梅雨とかび(真菌)
いよいよ梅雨の季節になり、むし暑い日々が訪れました。大雨による災害は避けたい所ですが、またこのような高温多湿の気候の下では家の中でかび(真菌)が繁殖しやすくなります。かびはこうじのようにみそ、しょうゆ、納豆や酒などの発酵にかかせない生き物で、またペニシリンという世界最初の抗生物質として発見された抗菌薬の成分も造り出しており、人類はかびをうまく利用してきましたが、一方かびはさまざまな病気の原因ともなります。
かび(真菌)による病気は大きく分けて皮膚や粘膜(口腔、食道、膣など)で繁殖する浅在性真菌症と体内の内臓(特に肺や脳)で繁殖し重篤となりがちな深在性真菌症があります。
浅在真菌症にはいわゆる水虫(白癬)、口腔、食道、膣カンジダ症などがあり、通常局所の外用処置で治療されます。爪白癬症も最近では多く外用の液で治癒が可能となってきました。
一方深在真菌症には四大真菌症と言われるアスペルギルス、カンジダ、クリプトコッカス、ムーコル菌が代表的です。これらの真菌は高齢、抗癌剤の投与、副腎皮質ステロイドの投与、糖尿病、血液疾患、エイズなど免疫能力が低下した状態でかかりやすくなり、時にこのような感染による体の組織の破壊とは異なりかびの胞子へのアレルギー反応で、気管支喘息(アレルギー性気管支肺炎アスペルギルス症)や過敏性肺炎(夏型、トリコスポロン)をおこす場合があります。
治療は組織を破壊する感染性の場合はリスクとなる免疫抑制をできるだけ改善すること、室内を清掃し、かびが生えないようにすること、ほこりっぽい所はさけることが最も基本で、発症した場合は早期に診断し適切な抗真菌薬の投与が必要となります。
診断のためには真菌の培養や同定が必要で時間がかかりますが、最近は血液検査による真菌のバイオマーカーが測定できるようになり早期診断が可能となってきました。アレルギー性の疾患の場合は環境をクリーンにすることはもとより、副腎皮質ステロイド薬の吸入や全身投与が必要となります。
梅雨の間は掃除をこまめにされて、室の湿気をできるだけ下げるようにして予防してください
浦田医院 浦田誓夫
令和元年 5月 おしゃべり通信
おしゃべり通信
No.234 H31.5.15発行 如春会 浦田医院
~H29年4月発行 日本小児科医会会報特集~
スマホパンデミック!⑪
<スマホ社会の落とし穴>
2.「劣化」の実相 -⑤
(4) 生活の乱れ・睡眠時間の短縮化
子供の就床時間は年々短くなっています。下図は小学生の生活リズムを書いたものですが、一日に必要な生活時間の構成は、学校制度が開始される前からそう多くは変わっていませんが、全国民の教育が義務教育化されると、学校という集団に所属する為の社会適応が当たり前に始まって、学校制度に適応するための時間(=家庭学習・学校へ行くための準備)がその中に入ってきます。
一般家庭の生活リズムの中にTV視聴が入ってきたのは昭和35年頃のことです。最低必要な生活時間の中に新しい事象が始まれば、何を切り捨てれば24時間の収支が合うのでしょうか?そうです。「遊びの時間内にそれを入れる」若しくは「何にもしていないと考えられている時間=睡眠時間」を短くするしか、その為の時間の確保はできないのです。そして実際に日本人の生活時間から「身体遊び」「外遊び」「睡眠時間」は短縮され続けています。
1981年に22時43分だった中学生の就床時間は2014年に23時12分とこの30年で30分も遅くなっています(日本学校保健会調査)。1983年に発売されたTVゲーム(男子が依存しやすい)、1999年頃からPC/メール(女子が依存しやすい)機能を持ったケータイと称する携帯用端末機の普及が、この睡眠時間の短縮と連動していることを認めざるを得ない状況だと皆さんも納得されますよね?
特に注目しなければならないのは、”ガラケー”時代には平日深夜1時以降に寝る中学生は11.8%だったのに対し、スマホを持つ生徒が1/3を超えると36.9%に激増することです(福岡市教育委員会・NPO子どもとメディア共同調査2013)。
子供たちの「疲労感」が最も強いのも、週明けの月曜日であることも解っています。週末に平日の疲れをとって、月曜日を迎えるのではなく、平日の2~5倍に増える電子映像メデイアへの接触時間が土日祝日などの休日を真の休養日にしていないのが、日本の家庭生活の実態なのです。つまり、平日に疲労回復し、週末につかれている・・?こうして疲れ果てて学校に行っているのでは、楽しいはずの学習にも嫌気がさし、根気も失われて、これでは学校での教育の健全性を保てないのは当たり前と言えるでしょう。これは家庭の習慣・社会教育の問題であり、学校だけが「学習の問題としてこれを改善しよう」としても、無理があるというべきです。
依然、高水準が続いている「不登校」。当事者である子供たちは概ね「いじめられた」「自分にとって学校に不適切なことがあった」ことをきっかけに学校に行けなくなったと言っていますが、客観的にみると、当初はどうあれ結果的には、学校にいけない憂さを「電子映像接触」に振り向け、今度はその為の疲れが取れず、そうやって長期欠席が続くと学業成績も思うようにならず、不達成感はいよいよ増大し、自己評価を自分で下げる結果となって、学校に復帰できなくなっている実態も既に明らかといえます。
これについて当院外来診療でも如実であることは、本人や家族ばかりでなく学校及び教育関係者も当初の引き金となった事案に拘泥する傾向が強く、続いて起きてくる家庭内で起きる自己責任に属する二次的現象をなかなか認知することができず、悪循環に入ってしまう例が多いことです。当初の問題は当初の問題として、具体的に、今できる子供の育ちへの支援を並行して行わなければなりません。つまり、どうやって「生活リズムを保持」するか?学校に戻った時に困らないように「学力を保持」しておくか?大きな原因をなっているだろう「メディア」オフを達成するか?等々に尽力すべき事は多い筈だと思いませんか?
子供の生活リズムを健全に保つこと。これは健康の問題から社会的成功まで、全ての幸福のための基本です。
子どもの事故と対策~子どもを事故から守ろう~
日頃から練習しておきましょう★「救急車の呼び方」
① 実際の呼び方
・119番にダイヤル
・「火事ですか?救急ですか?」と聞かれるので『救急車をお願いします』と答える
・まず住所を伝え、近くに目印となるものがあれば伝える
・子どもの状態を簡潔にはっきり伝える
・応急手当の指示を受け、従う
② 救急車に乗る前に用意するもの
・健康保険証、子ども医療費受給者証、母子手帳
・タオル、ティッシュ、ビニール袋
・着替えの衣類
・ミルク、哺乳瓶
・身体の状態のメモや熱型表、かかりつけ医の薬など
参考:改訂4版 子どもの事故と対策―子どもを事故から守ろう―
文責:管理栄養士 金柿
令和元年5月 院内報 天衣無縫
天 衣 無 縫
=第1号 令和元年5月号=
大腸の悪性腫瘍について
悪性腫瘍とは無秩序で無限の増殖能を持つ細胞により正常の細胞組織が破壊され、放置すると死に至る病気です。大腸の悪性腫瘍は99%以上が癌で、そのほか稀に悪性リンパ腫や肉腫がみられます。大腸がんは日本ではこの30年間で約5倍に増加しており、男性では肺癌、胃癌に次いで3番目、女性では癌の中で1番多くなっています。
大腸癌が増えた理由として、生活スタイルの変化が関わっているとされます。大腸癌の危険因子として最も高いのはアルコールで、次いで加工肉(ハム・ベーコン・ソーセージ等)・赤みの肉・肥満・糖尿病・喫煙(直腸癌)などが知られ、逆に予防因子として、身体活動(結腸癌)・食物繊維・カルシウム・魚の油の不飽和脂肪酸が知られています。他にも高身長・コーヒー・カロテノイド・牛乳・ビタミンD・にんにく等が言われていますが確実とは言えません。
大腸は成人で約1.2~1.8mの長さの管状の臓器で、小腸で消化・吸収された食物の残りかすから、水分を吸収して便を作り肛門より排泄する働きをしています。大腸は、小腸と繋がる盲腸から始まり、結腸(上行結腸・横行結腸・S状結腸)S状結腸・直腸移行部,直腸までを言い、直腸は肛門管に繋がっています。大腸癌は50歳代より高年齢化につれて増加しその60~70%はS状結腸と直腸から発生してきます。
大腸癌の早期診断には便の潜血反応の検査と大腸カメラを用いますが、通常の健診では便潜血反応を2回行います。感度は60~70%程度ですが、それでもこの検査の受診率そのものが男性で約40%女性では約30%で受診率が低く、積極的に受けられることをおすすめします。大腸カメラは人間ドックで検査されますが、大腸はひだが多くしかも硬いためカメラといえども完全に調べることは困難で、両方の検査が望ましいと言えます。もちろん何らかの消化器症状があれば医療機関で同様の検査が行えます。
大腸癌は他の癌と同様、局所にとどまり転移のない早期癌の段階で発見すると90%以上の生存が可能です。進行癌では現在、手術・化学療法の組合せで転移がなければ50~60%と進歩しつつあります。しかしやはり健診を受けて早期に発見することが最善の選択です。
浦田医院 浦田 誓夫